残業代に係る労使トラブル対処法

残業代に係る労使トラブル対処法

労働者からの「請求書」が届いたら

残業代に関するトラブルは多くの場合、退職した労働者からの未払い残業代の支払い請求という形で発生します。在職中の労働者からの残業代支払い請求は、ほとんど口頭で行われるのに対して、退職した労働者からの未払い残業代の支払い請求は、ほとんどの場合で「請求書」というタイトルの文書が内容証明郵便で郵送されてくる形で行われます。

 

労働者が未払いの残業代の支払いを求めてきたときは、文書であっても口頭であっても、会社としての支払い意思の有無を即答せずに、調査期間を設けて社内で調査して、その後に正式な回答をする旨を、まず通知しておくべきです。このときの調査期間はおおむね1月以内としておきます。

 

調査する内容は、労働者がどういった根拠に基づいて未払いの残業代を計算しているのか、具体的には、労働者が主張する残業時間(深夜時間・休日労働時間)、労働者が計算の根拠としている賃金・所定労働時間・割増率等の労働条件などです。
労働者が主張している残業時間が、会社が把握している残業時間と異なる場合(残業は発生していないという認識の場合を含む)は、その主張の根拠となる証拠等の開示を労働者に求めてみる必要があります。

 

会社が労働者に、定額残業代(基本給のうち一定額を残業代としている場合も含む)を支払っているという場合は、その定額残業代が何時間の残業に対応しているのか、労働者の実際の残業時間に対応する残業代が定額残業代内に収まっているかどうかとうかも調査します。なお、定額残業代を設けている場合であっても、労働者の実際の残業時間に対応する残業代が定額残業代を超えている場合は、実際の残業代と定額残業代との差額を支払わなければなりません。

 

未払い残業代の支払いを請求してきた労働者が、会社として管理監督者という位置づけにあった場合は、その労働者の会社内での役職にとらわれずに、裁判例などで、管理監督者か否かが争われた残業代の支払い請求の係る事件で、その判断要素として挙げている、@経営者と一体的な立場で業務を行っていたか、A休日や出退勤・勤務時間についてその労働者にどの程度の権限があったかどうか、Bその労働者の賃金が会社内の他の一般の労働者と比べてどの程度優遇されていたか、以上に照らして検討してみます。
管理監督者性を判断する要素として特に重要なのは、経営者と一体的な立場で業務を行っていたかどうかです。例えば店長や支店長といった役職であっても、その労働者が本社や本部などの指示に従って、販売促進等を行っていた、パートやアルバイトを募集採用しそのパートやアルバイト等のシフトを組んでいた(正社員等の採用には関わっていなかった)、店舗や支店等のルーチンワークを行うことが多かったなどの事実があるときは、管理監督者性を否定される要件事実となります。また本社等のスタッフ職の場合は、営業戦略や労務管理方法等の企画や立案から実行、社員等の採用基準の設定や労働者の採用判断等まの権限があったかどうか、などを検討する必要があります。
出退勤事項等については、例えば出勤時刻が遅かった場合や退勤時刻が早かった場合であっても、賃金がそれによって変動していては管理監督者とは言えません。賃金については、会社内の他の通常の労働者の賃金よりも厚遇であることは当然ですが、就業規則の賃金規程などで会社内の通常労働者とは別の手当てが付されていたとか、異なる等級にあったなどの客観的に見て分かり易い基準に照らして判断できるかどうかも重要です。

 

なお、いずれにしても残業代に係る紛争で一番争点になりやすいのは労働者の残業時間です。
法的には、残業時間については、第一義的には残業代の支払いを求める労働者側が主張立証すべき事項ですが、他方、労働基準法では使用者に労働時間管理義務を課していますので、労働者が、会社の出退勤時刻に基づいて未払いの残業代を計算しているようなときは、会社側でタイムカードなどにより労働時間を立証することになります。

労働者への回答内容と今後の方針を決める

労働者からの残業代支払い請求に対して、会社内で調査検討したうえで、労働者に対する回答内容を決めます。

 

このとき、回答内容によっては、労働者が、労働基準監督署へ会社を申告することや、裁判所へ労働審判手続きを申立てたり、訴訟を提起することに繋がってきますので、回答内容を決めると同時に、労働者に回答を送った以降に予想される展開に沿って対策を立てておく必要があります。

 

会社の労働者への回答内容は、@労働者の請求には応じない、A労働者の請求にすべて応じる、B労働者の請求に一部応じる、C無視、以上の4つが考えられます。

 

まず、@労働者の請求に応じないという回答を労働者になすときは、できる限り詳細にその理由を回答書に記載しておくべきです。場合によっては、直接労働者に担当者が会って就業規則などを労働者に見せながら労働者に説明すべきです。

 

A労働者の請求にすべて応じる場合は(あまりないとは思いますが)、残業代を支払うに際して清算条項を盛り込んだ合意書を作成して労使双方で取り交わしておくべきです。また、残業代は当然賃金ですから、本来であれば、残業代を支払うときに所得税を源泉徴収しなければなりません。会社が、労働者が負担すべき所得税を源泉徴収せずに労働者に残業代を支払っても構いませんが、後から税務署から指摘を受けたときには、会社が、本来労働者が負担すべきであった所得税を肩代わりすることにもなりかねません。

 

B労働者の請求に一部応じるときは、会社が独自に計算して得た残業代の額を労働者に伝えて、労働者から合意を得る必要があります。例えば会社としては、表面的には労働者が請求するような残業代は発生していない、という立場であっても、就業規則の規定があいまいだった、会社が労働者に対して就業規則を周知する手続きを十分に踏んでおらず就業規則が周知されていないと判断される恐れがある、労働者を採用するときに労働条件を文書で通知していない、使用者による労働者の残業に対する管理が不十分で黙示の残業の指示があったと判断される恐れがある、などのような事情がある場合には、和解金や解決金という形で労働者に一定程度の金銭を支払うことで、労働者と和解しておく方が紛争の長期化や拡大化を防ぐうえで賢明な判断だということもあります。
なお、労働者と和解するときは、必ず合意書を作成しその中に清算条項を盛り込んで、労働者と取り交わしておく必要があります。
また、労働者に対しては、「和解に応じるときには、合意書を取り交わした以降速やかに金銭を支払う」ということを事前に伝えておけば、労働者としても和解に応じやすくなります。

 

C無視は、正直なところ、まったくお勧めしません。労働者の請求に応じないというときであっても、何らかの回答をするべきです。

付加金

付加金は、労働者が裁判所に残業代の支払い請求の訴訟を提起したときに、労働者の請求に応じて、未払いの残業代と同一額を限度に、裁判所が会社に支払いを命じることによって、会社に労働者への支払い義務が発生するものです(労働基準法第114条)。
付加金は、裁判所の命令、つまり判決によってはじめて会社にその支払い義務が生じるものですから、例えば裁判外で当事者間で和解により未払い残業代に係る紛争が解決したときや、訴訟の途中で裁判上の和解により紛争が解決したとき、労働審判や労働審判手続の調停で紛争が解決したとき(=裁判上の和解と同一の効力となります。)などは、判決によらない紛争の解決ですので、会社に、労働者に対する付加金の支払い義務は発生しません。

 

したがって、労働者が会社に対して未払い残業代の請求に合わせて付加金の支払いを「請求書」で求めてきている場合は、少なくとも付加金については考慮する必要はありません。
もっとも、残業代に係る紛争について、訴訟に至った場合に判決まで行ったときは、付加金の支払いを命じられることもあること、については念頭に置いておくべきです。


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